熾幕鏡割オオグマ
夜間は谷を下る冷風に運ばれる山麓の大型草食獣の臭いを追い、冷井の外縁で待ち伏せる。厚い吻を風上に向け、犬歯は閉じた唇の内側に収める。中空の毛束は寒暖差から体を守り、肩の相変化板は熱を蓄え、炭黒の皮膚は放熱し、巨大な足裏は地熱を吸う。過熱時には反復する踏み歩きが空の盆地の黒曜板を熱で割り、高温の対流を生む。冷気が戻ると踏み歩きをやめ、無人の冷たい谷を通って休眠窟へ戻る。

観察区分現地観察
初遭遇地点第 05 · 第05日 · 熾幕オオグマ境界
生息地アトラス海門の外側、黒曜ガラスの死の盆地より手前にある乾燥した黄土色の谷。消光冷井回廊の放棄太陽鏡段丘、黒ガラス破片の斜面、地下冷却トンネル、三つの夜間冷却井
派生形態より深い山窟にいると伝えられる幼体、体長十七メートルの成体、この回廊で過熱により単独覚醒した個体
生息地と環境のしくみ
アトラス海門の外側、黒曜ガラスの死の盆地より手前にある乾燥した黄土色の谷。消光冷井回廊の放棄太陽鏡段丘、黒ガラス破片の斜面、地下冷却トンネル、三つの夜間冷却井。放棄された鏡場は昼間に熱を集める。日没後、主鏡を消光角に固定して初めて、谷を下る夜風が地下トンネルを抜け、三つの冷井から吹き上がる。アトラス海門が追日鏡陣を再起動すると、旧制御器は生物の影を汚れと誤認し、夜まで追光を続けて冷却路を塞いだ。巨熊の休眠窟は過熱し、覚醒後の踏み歩きが黒曜板を割り、熱対流を押し上げた。
消光冷井回廊へ ↗行動と生態機能
夜間は谷を下る冷風に運ばれる山麓の大型草食獣の臭いを追い、冷井の外縁で待ち伏せる。厚い吻を風上に向け、犬歯は閉じた唇の内側に収める。中空の毛束は寒暖差から体を守り、肩の相変化板は熱を蓄え、炭黒の皮膚は放熱し、巨大な足裏は地熱を吸う。過熱時には反復する踏み歩きが空の盆地の黒曜板を熱で割り、高温の対流を生む。冷気が戻ると踏み歩きをやめ、無人の冷たい谷を通って休眠窟へ戻る。
この回廊の頂点に立つ待ち伏せ型の捕食者として、大型草食獣の回避経路を形成し、冷井回廊が通行可能かを地形に示す。過熱した巨熊は討伐すべき敵ではなく、人間の鏡面制御の破綻を映す存在だ。主鏡を消光して冷気を戻すと、捕食者、草食獣、小型生物のそれぞれに必要な距離が復元する。
形態と識別
より深い山窟にいると伝えられる幼体、体長十七メートルの成体、この回廊で過熱により単独覚醒した個体
- 体長約十七メートルの巨大だが無理のない熊科体型
- 嗅跡用の厚い吻と、平常時は唇の内側に収まる犬歯
- 炭黒の放熱皮膚を覆う、淡色の中空断熱毛束
- 肩に並ぶ、暗い深紅色の相変化蓄熱板
- 過熱した踏み歩きで黒曜板を割る、巨大な黒い吸熱性の足裏
観察原則
方とKは、巨熊を追跡、誘引、包囲、接触、採取せず、照準も射撃も行わず、傷つけない。方が読むのは熱、足跡、気流、すでに動物が選んだ経路だけである。Kは人間の設備だけを変更し、能動走査を止め、武器を固定し、待ち伏せ線に入らない。歩行をやめる時機、退路、回廊に必要な距離は、巨熊自身が決める。
熾幕オオグマ境界では、黒曜の地表に逆方向へ向かう二種類の足跡が残っていた。大型草食獣は冷井縁を回避し、巨熊の足跡は谷を下る夜風が運ぶ臭いの道を追っていた。方は安全境界から熱幕と回避線を測定した。Kは能動走査を止め、遠くの一歩ごとに増える亀裂を記録した。二人は待ち伏せ線に近づかない。追跡も攻撃も負傷もなく、地形だけで危険は明らかだった。