警報より十七秒早く
第九蒸泉槽の霧は塩の地表に沿って流れていた。方と私にはまだ揚水井の起動音が聞こえない。それでも象牙色の鉱物管の上で、緋色の鰓冠が都市側から順に引き込まれ始めた。方は温度プローブを群体の外縁に留めた。私は能動走査を切り、受動式震動計だけに地下の低音を記録させた。井圧が上がるたび、後退線は警報より17秒早く泉岸を横切った。

当日の観察
第九凝縮門から都市の揚水井に最も近い第九蒸泉槽へ下り、鉱物管群の外側を保った。昼は鰓冠が引き込まれる順序を黒溶岩側へ追い、硫冠後退線で3層の水を比較した。夕方は冷水レンズ涵養口まで戻り、群体に入らずに人間側の旧式重力涵養ゲートを操作し、冷水を重力で裂け目へ戻せる位置を取った。
朝 · 第九蒸泉槽
群体は私たちから逃げているのではない。地熱塩沼の下を動く目に見えない過熱塩水を、私たちに読める形にしていた。方は、同期した反応を恐慌と取り違えるなと言った。私は地図に最初の裂け目を囲み、予定された取水指令を送信前に止めた。鰓冠は閉じたままだった。私たちは群体の外に残り、能動機器を切って、時間差が証拠になるのを待った。
昼 · 硫冠後退線
昼には、後退線が黒溶岩台の下まで移っていた。方が3層に分けて採水する。私は鰓冠を収める順序を旧地熱井の記録に重ねた。地下冷水レンズは本来、塩水と根系の間を隔てていた。それを淡水化井が薄い層にまで吸い上げ、熱塩水が新しい裂け目を通って上層へせり上がっている。鉱物管は動いていない。それでも鰓冠は最も熱い端から順に閉じ、圧力変化に方向を与えていた。都市は地下水だけを取ったつもりで、棲地の断熱層まで抜いていたのだと方は言った。私は安全経路を風上へ移し、どの群体にも触れなかった。証拠はもう足りていた。
夕 · 冷水レンズ涵養口
夕方、私たちは旧式の重力涵養ゲートの一区画だけを開けた。最初の冷水が裂け目に入っても泉霧は濃いままだった。地下の低音が二度目を終えると、外側に近いチューブワームが先に鰓冠を広げた。緋色の枝状の輪郭が、ひとかたまりずつ水面に戻る。方は個体の位置を調整せず、冷水が再び熱塩水を押さえられる線を記録した。私は涵養流量を自然浸透の範囲内に固定し、武器は収納したままにした。鰓冠が再び開いたことは見せ物ではない。後から来るすべての大型動物が塩沼を渡るための温度境界だった。
棲地の因果
地下冷水レンズは本来、過熱塩水を押さえ、地熱塩沼を通行可能な温度に保つ。淡水化のための連続取水がこのレンズを薄くし、熱塩水を新しい裂け目から上昇させた。群体が順次鰓冠を引き込む動きは、都市警報の17秒前に侵入経路を示した。重力涵養ゲートの一区画を自然浸透の範囲で戻すと、動物を移動させずに温度境界が再建された。
種の行動
硫冠チューブワームは固定された象牙色鉱物管に入り、共生菌で地熱性硫化物を取り込む。控えめな緋色の鰓冠は圧力上昇前、群体の最も熱い端から順に引き込まれる。冷水が熱塩水を押さえると、外側の群体が先に開き、残りも自分たちのタイミングで群れごとに続いた。
「方が記したのは動物ではなく、戻った冷水の線だった。私は涵養流量を自然浸透の範囲に残した。直したのは群体ではない。それがずっと読んでいた境界を、都市が削り取るのを止めた。」


