ガは雨より先に去った
酸性雨葉縁観測所では、湿り方にむらがあった。葉先から水は落ちているのに、板根の間の菌光は普段より暗い。ガは雨が降る前に上流の葉を離れた。方は翅脈の水分を測る。私は能動照明を切り、足場、風向、退路を記録した。最初の異変は脅威ではない。まず証拠として見る。

当日の観察
南洋の前進拠点から低騒音の補給艇で緩衝島の外縁へ渡り、根の桟道を通って巨大葉の下にある酸性雨葉縁観測所へ入った。そこから同じ葉幕の下を安全索に沿って登り、酸性雨の主流を横切らずに露脈菌灯の斜面へ進む。夕方はガの移動方向を追って胞子滴の分水嶺を越え、受動式湿度計で上流と下流を比べた。
朝 · 酸性雨葉縁観測所
露脈菌糸ガは降雨前に上流の巨大葉から離れた。方はガに触れず、減った翅脈水分を記録する。私はすべての能動武器を収納したまま照明を消し、群れの外側から見守った。早すぎる移動が、雨の前から林冠の霧が失われ続けていたことを示していた。
昼 · 露脈菌灯の斜面
方が採取したのは、自然に落ちた菌花と露だけだ。私は葉の下から安全索を固定し、花粉媒介帯が下流側へ縮んだ状態を記録した。菌花はまだ水の酸性を弱められる。しかし連続した水がなければ、ガと胞子の移動範囲は林冠の一角に押し込められる。
夕 · 胞子滴の分水嶺
ガは分水嶺を越えると、本来の集露を再開した。受動式計測でも、嶺の両側に大きな湿度差が出た。これ以上、群れを追う必要はない。戻った節律は、吸い上げ元が上流の霧凝縮塔群にあると示していた。
棲地の因果
巨大葉が林冠で酸性雨を受け止め、鉱物膜と共生菌が酸性を弱めてから、水は根の水路と下層の発光菌糸河へ入る。露脈菌糸ガは中空の翅脈に水分を集め、腹部共生菌で微量の酸を中和する。発光菌花から吸蜜し、乾いた林冠の亀裂へ胞子を運ぶ。古い凝縮塔群が霧を吸い続けたことで、上流の湿度は雨の前から低下した。それがガの早期移動、花粉媒介帯の下流への縮小、分水嶺の両側で異なる集露行動につながった。
種の行動
露脈菌糸ガは夜行性で、攻撃性はない。普段は雨が始まるまで上流の葉縁に留まり、菌花の間を移動しながら脚で胞子を運ぶ。今回は早く離れ、上流側では露を十分に集められず、分水嶺の向こうでようやく本来の節律を取り戻した。方と私はその選択を地図として読み、追い立てず、機器で進路を変えさせることもしなかった。
「通り道を直すとは、森林に命令することではない。私たちが水路に突っ込んだ手を引くことだ。方の言う通り、制御すべきなのは私たちのシステムだけだった。」


