
回折菌環保護帯
ここは元々、光子ウェハーと放熱材を試験する林床の隔離区だった。退役したウェハーガラスは菌糸と樹根に覆われ、ドーム光を分解する偏光台地に変わった。結露水、低レベルの廃熱、保守機械が残した鉱物膜が、回折光、静電気、菌環に依存する局所生態系を支えている。
- 上層領域
- NB-03 · ネオバビロン・チップ聖域
- 地理位置
- 積電城南部の保護帯と、退役した光子ウェハー試験区との境界。ドームの結露水路、野生化した林、露光アトリウム、封鎖された保守回廊から成る。
南部保護帯の同じ林で、正午と夕方のスペクトルが同時に繰り返し記録され、保守システムは野生動物を侵入者と誤判定した。方とKは、センサー故障、菌糸汚染、大型生物によるドーム内光周期の改変のどれかを確かめるために入った。証拠は、攻撃性のない神級生物、層光天蓋ガへ行き着いた。夜間も試験シーケンスを再生する古い露光回廊が、その回遊を妨げていた。
回折菌環保護帯の仕組み
退役ウェハーガラス、ドームの結露水、低レベルの廃熱、野生化した菌糸が、偏光帯と電藻ゴケをつくる。回折胞子グモは小昆虫を捕らえながら菌胞子を運び、脈光耳ウサギは電藻ゴケと菌環の若芽を食べて種子を冷却水路の向こうへ運ぶ。晶槽ヨロイホリ獣は不透水性試験層に湿った通路を開き直し、稜冠守巣雉は菌環で子を育てて小型節足動物を調整する。捕食者ではない層光天蓋ガは、乱れたドーム光を朝、昼、夕の3段階に再配分し、他の4種の活動を同期させる。
観察原則
方とKが行うのは、観察、採取、迂回、老朽設備の停止、そして共生だ。動物を攻撃せず、幼獣のいる巣穴に入らず、営巣中の鳥を追い払わず、ガの飛行を遮らない。生き物の境界が最短路を閉ざせば、二人が道を変える。人間のシステムが棲地を乱していれば、そのシステムを止める。
五日間の経路
- 外環光藻水路のクモの網から、競合する2つの光周期を読み取る。
- 廃熱果樹園でウサギが示す12秒前の予兆から、固定露光ループを特定する。
- 晶槽埋め戻し区でホリ獣が露出させた光ファイバーを追い、第七回折天井へ向かう。
- 営巣中の雉に最短回廊を譲り、無光迂回路を使う。
- ガの3段リズムを合わせ、旧露光試験回廊を停止し、天蓋残照台から棲地の再同期を見届ける。
この局所生態を支える五種
第01日回折胞子グモ
8本の脚をウェハーガラス葉の縁に固定し、整った放射状の網を張る。退役試験区の小型飛翔昆虫を捕食するが、方やKを威嚇しない。網に付着した菌胞子は、群れが網を張り直すたびに林床の新しい亀裂へ運ばれる。
第02日脈光耳ウサギ
電藻ゴケと菌環の若芽を食べる。偽の露光パルスが来る12秒前には、群れ全体が長い耳を伏せ、冷却水路へ退避する。観察者へ向かうのではなく過熱した光帯を避け、方とKが空けた通路を静かに抜ける。
第03日晶槽ヨロイホリ獣
幅広い掘削爪と、感覚器官の発達した丸い鼻先で、退役したウェハーの溝を掘り返す。方やKを威嚇しない。観察者が新しい入口と育幼洞を避ければ、成体は距離を保ったまま掘削を続ける。やがて群れは、新しい土の下から脈動する光ファイバーを露出させる。
第04日稜冠守巣雉
成鳥は協力して繁殖地を守る。プリズム状の冠羽を広げ、低周波で鳴き、進入路を塞いで境界を示す。観察者が反射光の線の外で止まれば、攻撃する必要はない。方とKが遠回りの無光経路へ移ると、成鳥は冠羽をたたみ、営巣域は静かになる。
第05日層光天蓋ガ
ガは方やKに近づかず、捕食行動も見せない。ドームの結露水に含まれる微細藻類と高空の胞子を食べながら、樹冠上を滑空する。Kが試験ループを止めても翅脈は速まらず、ゆっくりと本来のリズムに戻ってから天井を通過する。
「異常の正体は、神級生物による人間システムへの侵入ではなかった。廃止後も動き続ける人間のシステムが、棲地の生きた時計の回遊を妨げていた。固定露光ループが止まると、ガは保護帯に朝を返し、他の4種も自分たちのリズムを取り戻した。」